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サブリメイション 小石川氏/須貝氏 インタビュー

図書館戦争 革命のつばさ」、「009 RE:CYBORG」など多くの作品を制作に携わられているサブリメイションの小石川氏と須貝氏にお話しを伺いました。

小石川 淳(こいしかわ あつし)

株式会社サブリメイション 代表取締役。大学卒業後 某大手企業にシステムエンジニアとして入社。退社後、プロダクションIGや幾つかのゲーム会社を経て、2011年7月に「株式会社サブリメイション」を設立し現在に至る。


須貝 真也(すがい しんや)

株式会社サブリメイション 取締役 3DCGディレクター。大学在学中にCGの専門学校にも通い卒業後、ゲーム会社に入社し3DCGアニメーターとして活躍。プロダクションIGに入社後、小石川氏と共に「株式会社サブリメイション」を設立。

株式会社サブリメイションhttp://www.sublimation.co.jp/
図書館戦争 革命のつばさhttp://www.kadokawa.co.jp/toshokan-sensou/
009 RE:CYBORGhttp://009.ph9.jp/
ryo(supercell) feat.初音ミク 『ODDS&ENDS』http://www.youtube.com/watch?v=iOFZKwv_LfA&feature=youtu.be
BLOOD-Chttp://www.blood-c.jp/

お二人の経歴とサブリメイション様を起業される切っ掛けを教えていただけますか?

小石川氏:大学を卒業した後、某企業に入社しシステムエンジニアをしておりました。4年間ほどシステムエンジニアの職に就いていたのですが、体調を崩し退社した後に、プロダクションIGが100%の出資で起業したゲーム会社にオープニングスタッフとして入社しました。

DS:それはエンジニアとして入社されたのですか。

小石川氏:ゲームプログラマーとして入社しました。
「やるドラ」というゲームを昔プロダクションIGが制作していたのですが、この流れで「やるドラ」シリーズのオリジナルスタッフで、「やるドラ」のようなゲームを新しいブランドで制作することになり、そのゲームのプログラマーとして採用されました。制作したゲームは実際発売されたのですが、当時、13万台程度しか出回っていなかったXBOXで発売したため、なかなか厳しいものがありました。

DS:何年くらいになりますか。

小石川氏:2000年か2001年です。
入社した会社では4本ほどゲームを制作しました。その後、ゲーム会社に所属していたプログラマーやデザイナーは全員、プロダクションIGに入社することになり、9stと呼ばれる「攻殻機動隊S.A.C.シリーズ」を制作した部署(※第9スタジオ)に配属されることになりました。

DS:そこから(株)サブリメイションの起業に至るのでしょうか。

小石川氏:いえ、実はまだもう1ステップあるんです。当時、プロダクションIGにもゲーム制作の部署がありまして、私はこの制作部署への配属を希望したのですが、システムエンジニアとしての腕を買われ、「攻殻機動隊S.A.C.」を制作しているチームに配属され、その部署でしばらく仕事を続けておりました。ですが、ゲーム制作にはメインで関わることができず、一旦、プロダクションIGを退職し、某ゲーム会社にディレクターという形で入社しました。
このゲーム会社ではPSPのゲームを2本ほど制作したり、パチンコのプログラムなどを制作したりしておりました。このころに、アニメの映像クオリティとパチンコで使用している映像を結び付けたら、お互いに良い感じに回るのではないかと考え、思い切って会社を起業し現在に至ります。

DS:須貝様はいつごろ入社されたのですか。

須貝氏:大学在学中にCGに携わりたいと思い、大学の他にCGの専門学校にも通い始めまして、大学と専門学校を同時期に卒業しました。最初はゲーム会社に入社し、そこでは3DCGアニメーターとしてアニメーションだけの仕事をずっとやっており、「龍が如く」や、「ブルードラゴン」、「聖剣伝説4」などのモーションに携わっていました。その後、プロダクションIGの9stで人を募集していたので、応募し入社しました。自主制作以外ではモデリングやコンポジットなどはほぼ未経験だったのですが、最初に振られる仕事はモデリング等の仕事がメインだったので、独学プラス周りの方に聞きながら覚えていきました。

DS:LightWaveはいつから使用し始めたのでしょうか。

須貝氏:9stのメインツールがLightWaveだったので、そこで初めて使用しました。

DS:小石川様のLightWaveとの出会いはいつ頃でしょうか。

小石川氏:システムエンジニアをやっているときにLightWaveのバージョン2を1番最初に触った3Dソフトとして記憶しております。ゲーム会社は大体このソフトでモデルを作成しているらしいという情報をどこかで聞き、ソフトを紹介してくれた人のところに行き触った記憶があります。実際ゲーム会社に入ったら、そこは3ds Maxを使っていて、3ds Maxを使用しているデザイナーが7割であとはLightWaveを使用していました。

DS:サブリメイション様のオープニングスタッフは、9stで働いていた方だけですか。

小石川氏:そうです。起業について悩んでいたの時に、プロダクションIGのプロデューサーさん達から是非にお願いしますと言われ起業することになりました。
というのも、当時プロダクションIGさんも社内にCGチームを持っていたのですがコントロールするのが難しく、どのような3Dソフトやプラグインを使用すれば費用対効果が得られるかなどの質問を私が受けていたりしたんです。そのような経緯もあり、プロデューサーさん達から是非、3Dチームをまとめて下さいと言われ、起業を後押しして頂けました。

DS:サブリメイションの設立はいつごろでしょうか。

須貝氏:2011年7月15日ですね。

DS:何名で設立されたのでしょうか。また、現在は何名ほどでしょうか。

須貝氏:設立当時は8人くらいでしたが、現在は30名後半くらいです。

DS:LightWaveありきで9stで仕事が始まったのですか。

小石川氏:そうですね。当時、プロダクションIGの中にはHoudiniやMaya、3ds Maxなどの3Dソフトが混在していたのですが、「攻殻機動隊S.A.C.」をやっている9stはLightWave1本でやっていくことになっていました。

サブリメイション様の作業ワークフローを教えてください。

須貝氏:現在モデリングはmodoをメインに使用しています。LightWaveのモデラーは、オブジェクトをレイアウトに持って行ったあとの微調整に使います。
アニメーションは完全にLightWaveを使用しています。その後、After Effectsでコンポジットするといった流れになります。作業は完全な分業ではなく、1人1人がなんでも出来るようなゼネラリスト集団という形で進めています。

図書館戦争 革命のつばさ」や「009 RE:CYBORG」などの作業時の制作人数と期間を教えてください。

須貝氏:図書館戦争 革命のつばさ」は、メインスタッフとしては、10人くらいですね。手伝いとか含めたらもう少しいますが、メインは10人程度で半年で制作しています。

DS:クリエイターがパート毎に担当されるのでしょうか。

須貝氏: チームに入ってきた順に割り振る形です。総カット数は約350くらいですね。

小石川氏: 3Dでレイアウトを起こしたのですが、専属の人間を一人立てました。

須貝氏: この作業は全部LightWaveでやってます。

DS:009 RE:CYBORG」の時はいかがでしたか?

小石川氏:009 RE:CYBORG」の作業インが2012年1月で完成したのが2012年9月の中ごろだったので、9か月くらいかかりました。ただ、本編を制作する前に、ペプシのCMとスタッフサービスのCM制作が、2011年10月からスタートしていたので、1年間くらいは「009 RE:CYBORG」に関わっていました。作業人数は一番多い時期で13〜14人くらいです。

LightWave以外に併用しているツールを教えてください。

須貝氏:modoと3ds Max、AfterEffectsなどのアドビ製品ですね。以前はエフェクトを作成するためにRealFlowなどを使用していた時期もあるのですが、最近は、オブジェクトの方が意図した絵が作れるので、あまりシミュレーションツールは使用していないです。たまにエフェクトだけ、3ds Maxを使用したりしています。

DS:どのようなエフェクトでしょうか。

須貝氏:水しぶきや、煙系です。煙系はLightWaveで作れるのですが、水系をLightWaveでやろうとすると、メタボールをメッシュ化し変形するといった処理が必要になり、LightWaveだと難しいので、このあたりは3ds Maxを使用しています。このような機能がLightWaveにもあればいいですね。

小石川氏:ペプシCMの中の流体はRealFlowを使って表現しています。RealFlowを使用したのはここになります。

須貝氏:BLOOD-C」では血の表現でも使用しました。

セル調の作品が多いですが、モデリングやアニメーションなどで気を付けている点やこだわりなどがありましたら教えてください。

須貝氏:2D、セルルックでは影やハイライトが大事になってくるのですが、モデルが歪んでいたりすると、ぼこぼこと影が歪んでしまい綺麗に出せなくなるので、ポリゴンの流れと歪みのないモデリングという形に気を付けてモデリングしています。

小石川氏:明確に線が出てほしい部分に、小細工を入れてきっちり線を出すというところですね。

DS:アニメーションに関しては如何でしょうか。

須貝氏: アニメーションは作画に合わせるという意味で、1コマ2コマ3コマのコマ抜きのアニメーションをちゃんと意識して作らないと、ただぬるぬる動いてるようなアニメになってしまいますのでこのあたりを気を付けています。後はカメラから見た絵は作画だと現実と比べてパースや大きさなどに嘘がありますが、現実がどうであるかよりも、作画に近づけるという意味でカメラから見た絵だけを意識して作っています。ただ、立体視の作品になると嘘をつくのが難しくなるので大変です。

小石川氏:そこがゲームと一番の違いですね。
ゲームはカメラの位置がどこに来るか分からないので、モーションはどこから見ても綺麗なものというのが当たり前ですが、アニメの場合はレイアウトが決まっていて、カメラの位置も固定なのでそのカメラに対してとにかく気持ちのいい動きが出来ていれば良しということになります。
後は、「溜め詰め」と言われるアニメ特有の間の持ち方でしょうね。溜めを作り、動いた瞬間の動作も無しに次の動作に移ることで、一瞬の動きの速さを出せるので、そのようなことはCGとはいえ、アニメ作品である以上は気を付けるようにしています。

DS:レンダリングの部分はどのようにされているのでしょうか。

須貝氏:他の会社さんに比べて、レンダリングは素材をバラバラにするといったことは今はやってないです。ただ今後は素材は分けて出さないとまずいかと思っています

DS:LightWaveでレンダーデータを出力し、AfterEffectで修正しているのでしょうか。

小石川氏:社内で作成したオリジナルのシェーダーを使用しています。

図書館戦争 革命のつばさ」や「009 RE:CYBORG」などでなにか新しい試みなどはされましたでしょうか。

須貝氏:009 RE:CYBORG」で言うと、エフェクト周りですかね。エフェクト周りは今までボリューム系のソフトやプラグインなどで煙を制作していたのですが、オブジェクトで出来そうだと見えてきたので、その方法でエフェクトを制作しました。オブジェクトで制作すると、絵を描く感じでエフェクトが作れるので、意図した絵が作りやすいんですよね。

DS:データが重くならないでしょか。

須貝氏:なりますね。さらにスムージングがかかって、変形させるとだいぶ重くなったりします。といっても、これは実際にエフェクトを作っていた3ds Maxの話ですけど。
LightWaveはフロッキングなどで、出来そうな気がしますね。インスタンスも軽そうなのでよさそうな気がします。

DS:納期はいつもあるんですよね。

小石川氏:そうですね。
基本的に納期は絶対です。上映や放映などのスケジュールが決まってる以上、絶対に出してくださいということになっています。

須貝氏:技術的な苦労は常にあるのですが、新しい情報は情報戦なんで常に勉強して研究はしています。新しいカットがきた時に、どうしようかというのは常にありますね。

DS:事前に研究開発もやられてるんですか。

小石川氏:そうですね。ただ、今はあまりその時間が取れてないです。

須貝氏:その部分はプログラマーの方がある程度引き受けています。

アニメーション以外の作品にも携わられておりますが、どのような作品か可能な範囲で教えて頂けないでしょうか?

小石川氏:今だと、アニメの他にミュージッククリップの制作にも関わりました。

須貝氏:CMでメカのモデリングを頼まれたりともありますね。

小石川氏:しょっちゅうあるわけではないのですが、CADデータを頂きそれを元にこちらの方で動きを付けて、プレゼン映像を制作したりといったことも、今まで3つ4つやってますね。インダストリアルデザインに近い仕事もちょっと入ってきます。

DS:この作業でもLightWaveを使用されているのでしょうか。

小石川氏:LightWaveを使ってます。

DS:データはDXFですか。

小石川氏:はい。CADのデータも何種類かフォーマット対応していますので、シンプルに開けるもので頂いています。設計図だけで稼働する部分などが全然ないので、これを元にモデルを作り直し、セットアップなどを行います。見た目ではCADのモックと一緒ですが、実際にはLightWave上で完全に作り直したものを制作します。

サブリメイション様がLightWaveを使い続ける理由を教えてください。

小石川氏:これはもう本当に明確でして、「攻殻機動隊S.A.C.」をやっていた時にLightWaveをメインツールで使用しており、並行して自社オリジナルの絵を表現するための技術開発も行っており(現在も開発中)、このリソースを捨てる気にはなれませんでした。Pencil+(※3ds Max用 ノンフォト リアリスティック・シェーダー プラグイン)が出てくるまでは、我々が作ったシェーダーを通して出てくるアニメ調の絵が最先端だったと思います。このような過去の資産なども含め、LightWaveはメインツールとして使っていきたいと思っています。

須貝氏:個人的な感じ方ですが、LightWaveユーザーって情報共有を良くするって言うか、温かみがあるというか結束力がありますよね。その辺が好きなんですよね。

DS:サブリメイションさんに入社される方達の3Dソフトはどうされているのですか。

須貝氏: LightWave使ってもらってます。

DS:学生さんはどうされるのですか。

須貝氏:学校のときは3ds Max、Mayaを使用しているようです。LightWaveを触らせるとこれどうやるんですかみたいなのが結構多いですよ。自分もいろいろな3Dソフトを使用した後で、最後にLightWaveを触ったので、最初はアレって感じだったんですが、今はLightWaveが大好きなんですよ。使ってれば分かってもらえると思うのですが、発想力や応用力とかがあれば、LightWaveを使った方が早く良いものができると思っています。

LightWaveで良く利用しているツールがあれば教えてください。

須貝氏:LightWaveで3Dレイアウトを切るときのカメラの種類ですが、ShiftCameraというのがありますよね。あれが縦パースを歪ませないで出来るので、アニメのレイアウトを切るにはShiftCameraを使用しています。良く演出さんから縦のパースが気持ち悪いんで、真っ直ぐにしてほしいと言われるんですが、そうなった時に普通のパースペクティブカメラやクラシックカメラだとできないんです。ShifCameraを使ってレイアウトを切るとアニメの絵に近づけられるので、個人的には結構使用していますね。
あとは、個人的に探してきたプラグインなんですが、PV Camっていうパースビューから見たカメラを作ってくれるプラグインがあるんですよ。3ds Maxではパースビューからカメラを生成という機能があるのですが、これと同じような機能なんです。

これからLightWaveを始められる方や3DCGを始められる方へアドバイスをお願いします。

須貝氏:とにかく聞く&観るをたくさんする貪欲さが大事だと思います。手ぶらで聞くのは失礼なので、一度自分でやった結果を持って行って、これより良いやり方ありますかね?などを周りの先輩などに聞くのが上達の近道です。上手い方達のシーンをもらって中をみるのも良いと思います。
私が実践しているのは、表現しようとしているものがうまくいかなくて、煮詰まるときがありますよね。そういう時は、気分転換にその作業を一旦止めるんですね。止めた後に戻ってきて、そのシーンを捨て、もう一度いちから作成し直すようにしています。そうすると、今までやっていたやり方の悪かったところが見えたり、新しいやり方が見つかったりという良いことが多いので、そういうやり直す勇気というものは必要かと思っています。あとは、自分の好きなアニメ作品の好きなカットをCGでどのように表現しようかというのを考えて真似して作ってみるのもいいかと思います。どのようなことでも、研究し続け頑張って下さい。

小石川氏:LightWaveに限らず3DCGのソフトって何種類もあり、良く議論される「Mayaが最強だよね」とか「アニメだったら3ds Maxじゃなきゃね」という話は、実はナンセンスだと思っています。どの3Dのソフトも長所があり短所があるっていうことを理解した上で、どれか一本をきっちりマスターするっていうのが一番大事かと思ってるんですね。
私がプログラマーなので、プログラム寄りの発言になるのですが、1つの言語をきっちり習得したプログラマーは他の言語に乗り移るのがすごく楽なんですね。あるプログラム言語ではAと呼ばれる機能が別のプログラム言語ではBという名前になっているだけだというのが分かります。アルゴリズムは変わらないわけですから、C言語を習得した後だったらBASICでも、Pealでも、JAVAでも比較的簡単に乗り換えて行ける訳です。このようなところが3Dソフトとすごく近いなと思っていて、1個のソフトを習得した時に、ある機能は、別の3Dソフトではこういう名前になっているということが分かれば、自由に渡っていけると思うんです。
うちは長所を組み合わせて、その場その場でベストな作業というのをやってると思っています。LightWaveでやり切れるところは手早くいいものを作りたいし、Pencil+を使わなきゃいけない作品は3ds Maxにするとか、モデリングはmodoで行うなどがあります。ですから、一本どれか最初にベースとなるものをキッチリ習得しておくことが大事なのではないかと思います。実際、うちも新人にはとにかくLightWaveを憶えてくれっていうことで、まずLightWaveの基礎を叩き込んでいます。

本日はありがとうございました。